視覚科学フォーラム第1回研究会の開催に当たって
会長 金子章道
視覚はわれわれの生活にとってきわめて重要な情報源である。視覚に含まれる情報量が豊富であるだけでなく、光を媒体とする視覚はわれわれの手の届かない遠く離れた所からの情報をもたらすという特徴を持っている。 視覚のメカニズムを理解するためにはさまざまな領域の学問が必要になる。光を受容する分子を明らかにする化学、生物物理学、分子生物学、形態学、生理学などのさまざまな学問領域、視覚情報の初期処理過程である網膜のメカニズムを明らかにする研究、認知に関わる高次視覚中枢の研究、さらに視覚心理学や工学モデルによる視覚系の理解、また病態を研究する眼科学などである。当然このような広い分野を個人がカバーできないことはいうまでも無い。また、各学問領域の進展に伴い、研究分野は細分化し、個々の研究の位置づけ、体系的理解は困難となっている。こうした現状をふまえ、自らの研究の位置づけをしっかりと認識し、密接に関連する領域の研究の進歩を理解するためには、さまざまな学問領域で研究を進めている視覚研究者が結集し、相互理解、協力を深めることが重要であると考えた。 これまで10数年にわたって生理学研究所の研究会として視覚研究会を開催してきたが、近年参加者が100名を越えるようになり、生理学研究所の一研究会の規模を越えるようになった。そこで、昨年の研究会の折りにわが国の視覚研究者を結集した組織を発足させることを提案したところ、多くの賛同者を得たので新しい研究組織、「視覚科学フォーラム」を発足させることとなった。これまでもわが国には世界の視覚研究に大きな貢献をしてきた先輩達の輝かしい業績がある。今年、第一回目の研究会を開催するに当たり、「視覚科学フォーラム」が発展し、わが国の視覚研究が世界の先導的立場に立つことができるようになることを強く希望するものである。