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講演会

「マウスおよびヒト網膜ON双極細胞におけるTRPM1-Lチャネルの機能解析」


演者: 古川 貴久 先生
(大阪バイオサイエンス研究所 発生生物学部門)

講演要旨
目 的
  TRP(transient receptor potential)チャネルは脊椎動物、無脊椎動物の様々な動物種において感覚受容に重要な役割を担っている。TRPスーパーファミリーで最初に同定されたtrp遺伝子産物はショウジョウバエの光応答を司っている。その後、脊椎動物においても様々なTRPスーパーファミリー分子が種々の感覚受容に必須の機能を発揮していることが明らかになってきたが、視覚情報系においてTRPチャネルが決定的に重要な働きをしている例は知られていなかった。
 視覚経路の入り口器官である網膜において、ON双極細胞の情報伝達カチオンチャネルの実体は、多くの研究者の努力にも関わらず長らく謎であった。我々は、脊椎動物における中枢神経系の発生と機能原理を解明する目的で、網膜の発生、回路形成や機能について、視細胞と双極細胞の細胞運命決定、網膜前駆細胞の増殖機構、視細胞の細胞極性の形成と層構造の構築、視細胞の神経終末の形成といった様々な面から研究を行っている (Sato et al., 2008; Katoh et al., 2010)。我々は網膜に特異的あるいは高レベルで発現する分子群のスクリーニングから、網膜にTRPM1が特異的に発現することを見出し、組織学的解析ならびに機能解析を行った。さらに、我々はヒトTRPM1遺伝子の変異がON型双極細胞の機能欠損の疾患と考えられる遺伝性完全型停止性夜盲症(CSNB)の原因遺伝子となっている可能性を検討した。

方 法
 TRPM1の抗体作製によるTRPM1蛋白質の組織レベルならびに細胞レベルでの局在の検討、CHO細胞での再構成系によるチャネルとしての機能解析、mGluR6ならびに Go蛋白質との機能相互作用の解析、TRPM1 KOマウスにおける双極細胞の生理学的機能、ヒト遺伝性完全型停止性夜盲症患者DNAのTRPM1の変異解析などを行った。

結 果
 TRPM1はON双極細胞に特異的に発現し、mGluR6、Goalphaと共局在した。TRPM1のノックアウトマウスを作成し、網膜電位図を測定したところ、暗順応条件下、明順応条件下でともにb波が完全に消失していた。網膜スライス標本にホールセルクランプ法を適応した結果、TRPM1ノックアウトマウス網膜においては ON型双極細胞のみが光刺激に応答しなかった。再構成系で TRPM1は mGluR6、Goaplhaによって負に制御されるカチオンチャネルであることが明らかとなった (Koike et al., 2009) 。また複数の完全型停止性夜盲症の患者DNAでTRPM1の変異を同定し、それらの変異はTRPM1チャネルの機能欠失を生じることを示した(Nakamura et al., 2010)。

考 察
 我々の解析から, TRPM1が長らく探されてきたON双極細胞の情報伝達チャネルの実体であることが明らかとなった。また、TRPM1の変異はヒトCSNBの原因の一つとなっていることを示した。ヒトCNSB患者で同定された様々な変異とTRPM1の機能との関連を解析することで、TRPM1の詳細な機能作用機構の理解の進展が期待される。

引用文献
Sato, S., Omori, Y., Katoh, K., Kondo, M., Kanagawa, M., Miyata, K., Funabiki, K., Koyasu, T., Kajimura, N., Miyoshi, T., Sawai, H., Kobayashi, K., Tani, A., Toda, T., Usukura, J., Tano, Y., Fujikado, T. & Furukawa, T.
Pikachurin, a dystroglycan ligand, is essential for photoreceptor ribbon synapse formation. Nat. Neurosci. 11: 923-931. 2008.

Katoh, K., Omori, Y., Onishi, A., Sato, S., Kondo, M. & Furukawa, T.
Blimp1 suppresses Chx10 expression in differentiating retinal photoreceptor precursors to ensure proper photoreceptor development. J. of Neurosci. 30(19): 6515-6526 . 2010.

Koike, C., Obara, T., Uriu, Y., Numata, T., Sanuki, R., Miyata, K., Koyasu, T., Ueno, S., Funabiki, K., Tani, A., Ueda, H., Kondo, M., Mori, Y., Tachibana, M. & Furukawa, T. TRPM1 is a component of the retinal ON bipolar cell transduction channel in the mGluR6 cascade. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 107(1): 332-337. 2010. Epub 2009 Dec.4.

Nakamura, M., Sanuki, R., Yasuma, T. R., Onishi, A., Nishiguchi, K. M., Koike, C., Kadowaki, M., Kondo, M., Miyake, Y. & Furukawa, T.
TRPM1 mutations are associated with the complete form of congenital stationary night blindness. Mol. Vision, 16: 425-437. 2010.